睡眠と健康について

日本人の睡眠時間は欧米諸国と比べると短く、特に女性ではその傾向が顕著に表れているというデータがあります。また、厚生労働省のデータによると、現在、日本人の5人に1人は、睡眠時に何らかの障害を抱えているとされています。時間が不足しているばかりか、内容にも問題があると考えられる睡眠。しかも睡眠不足は、高血圧や糖尿病、動脈硬化といった生活習慣病の原因になるともいわれています。

 

では私たちの睡眠の実態はどうなっているのでしょうか。理想的な睡眠を得るにはどうしたらいいのか、探っていくことにしましょう。


 

睡眠の「質」が一番のポイント

 総務省の調査によると ,日本人の全年齢の平均睡眠時間は女性が7時間36分、男性が7時間49分。しかし働き盛りにさしかかった35~39歳では、女性が7時間22分、男性が7時間24分と短くなってきます。なかでも最も睡眠時間が短いのが男女とも45~49歳。この年齢層では女性が6時間48分、男性が7時間18分と、かなり睡眠時間が短いことがわかります。

 

また、OECD (経済協力開発機構) の調べでは、下の表のように日本人の睡眠時間の短さが際立っています。おまけに、女性の睡眠時間が男性より短い国は、日本以外では韓国とメキシコくらいしか見当たりません。

 

では、睡眠時間が足りていれば、体の休息は十分といえるのでしょうか。答えはNOです。

睡眠中は、深い眠りの「ノンレム睡眠」と浅い眠りの「レム睡眠」を繰り返しています。レム睡眠中には基本的に筋肉は動かないようになっていますが、脳は活動をしており夢を見ています。そして一晩にノンレム睡眠とレム睡眠を4~5回繰り返します。ノンレム睡眠にはレベルがあり、最も深い眠りを得られるのが最初の1回。つまり寝入ってから約90分の間に深い眠り=ノンレム睡眠に達すれば、脳もカラダも休ませることができるため、朝起きた時に「ぐっすり寝た」という満足感を得ることができるのです。

 

また、寝入ってから90分の間に1日で分泌される成長ホルモンの約80%が分泌されるのです。「これ以上身長が伸びるわけではないから、成長ホルモンが分泌されなくても関係ない」と思っていたら、大間違い。成長ホルモンは単に「成長」を促進させるだけでなく、「細胞の修復」や「疲労回復」に役立っています。肌=皮膚や内臓の細胞を新しいものに入れ替える「ターンオーバー」は、成長ホルモンによって行われるのです。そのため、成長ホルモンを「若返りホルモン」と呼ぶ専門家もいるほどです。

明け方になると、成長ホルモンに代わってコルチゾールというホルモンの分泌が高まります。コルチゾールは、体内に蓄えられた脂肪をエネルギーに変えるホルモンで、体が目覚める準備を始めるのです。睡眠の質がよくないと、成長ホルモンが十分に分泌されないうちにコルチゾールの分泌が高くなってしまいます。「睡眠が不足しているなぁ」と感じた翌朝に、肌のコンディションがよくないと感じたことはありませんか。それは、成長ホルモンが十分に体にいきわたっていないからかもしれません。

 

質のいい睡眠のために必要なこと

人間には体内時計があり、それが1日の24時間とずれているため睡眠にも影響が出るといわれています。体内時計は24.5時間とも24.2時間ともいわれてきましたが、最新の研究では24時間11分と発表されています。たかが11分と思うかもしれませんが、放っておくと1週間で1時間以上、1カ月にすると4時間以上もずれてしまうことになります。これをリセットして24時間と合わせることで、生活のリズムが生まれます。そして夜になったらメラトニンという睡眠をうながすホルモンが分泌されるため、質のいい睡眠も可能になります。

体内時計をリセットするのに有効なのは、まず朝起きたときに太陽の光を浴びること。これによって、体内時計の「親時計」を目覚めさせることができます。しかし体の奥深くにある「子時計」には光が届きません。そこで子時計も目覚めさせるために、食事を摂る必要があります。太陽を浴びてから、あまり時間をおかずに朝食を摂る方がいいと考えられます。

 

1日のリズムを取り戻したら、睡眠や入浴、食事を計画的に行うことを考えましょう。

食事は床に就く3時間以上前にすませ、胃腸を休めてから寝るのが理想的です。また、質のよい睡眠のためには、体を温める食事を選びましょう。人は高い体温が下がるときによく眠れます。例えば唐辛子に含まれているカプサイシンには、体温を上げた後に下げる作用がありますから、そういった食材を選ぶといいでしょう。

運動は夕食後1時間以上たっていて、床に就く2時間以上前までに行うといいでしょう。適度な疲労感は、睡眠のよきパートナーです。しかし寝る直前に運動すると体温が高くなりすぎ、寝付くことが難しくなりますから注意しましょう。

入浴はシャワーですませるのではなく、40度くらいのぬるめのお湯にゆっくりつかるのが効果的です。リラックス効果が得られるだけでなく、高くなった体温を放熱しようと血管が開くことで、副交感神経が優位になります。そして血流のよくなった四肢から熱が逃げていき、体温が下がることで寝付きやすくなるのです。風呂上がりに手首や足首を伸ばすといった軽いストレッチを行うことも、質のいい睡眠の後押しとなります、但し体温が下がり切らないうちに、ふとんに入りましょう。

 

質のいい睡眠をサポートするアイテム 

睡眠の質を高めるためには、寝具なども重要なポイントです。

例えば自分の体形に合った枕を選ぶことで、安眠を得られることも多いのです。頭頂部が高すぎると首が落ち込んでしまうため、肩こりやいびきを引き起こすことがあります。顎が上がってしまう状態だと、いびきや口呼吸の原因になることもあります。店が実際に計測して、個人個人に合った高さの枕を提供してくれるお店も増えていますから、試してみるのも一つの手です。

マットレスを替える方法もあります。スポーツ選手がよく利用しているという、凹凸のマットレスは、体圧分散がよく多くの人に最適です。また、寝返りが打ちやすいため、快眠に結びつくのです。

パジャマ選びにも気を遣いたいものです。一番パジャマにピッタリなのが、汗をしっかり吸い取ってくれる薄手のコットン製です。寒い時期には少し毛羽立ったものに替えるのがいいでしょう。しかし、厚着をして寝ると寝返りが打ちづらくなるため、快眠できないことがあります。また、靴下を重ね履きすると血流が滞ってしまうため、かえって温まりません。冷え症の人も、重ね履きを避ける方が無難です。

 

睡眠のリズムを突然断ち切ってしまう大音量の目覚まし時計は、心地いい目覚めのためには逆効果です。今では優れモノの睡眠計が発売されていますから、活用してみてはいかがでしょう。注目の機能は、「設定した時刻から60分前までの任意の時間の間で、目覚めやすいタイミングでアラームを鳴らしてくれる」点です。この機能に関しては、睡眠を研究する専門家からも「理にかなっている」「スッキリ目覚めがいい」と評価されています。また、睡眠時間や寝付きにかかった時間、夜中の寝返りも計測してくれるので、自分の睡眠の状態を把握することができます。

カモミールなどのハーブティーや、漢方薬を利用するのもいいでしょう。また、休息のためにアミノ酸の「グリシン」を活用する人も増えてきています。いずれにせよ、自分にマッチするアイテムを見つけることが、快眠に結びつくのです。

 

 

睡眠時に障害を抱える人が増加中 

最近、睡眠に関連した多くの症状が問題となっています。

「睡眠時無呼吸症候群」と聞くと、“太った中年男性に多い”というイメージを持つ人が多いでしょう。しかし、やせている女性にも増えているのが現状です。

大半の場合、太くなった首の肉が、睡眠中に気道をふさいでしまうことで起こるのが原因といわれています。しかし、やせている人でも、下あごが重いために気道をふさいでしまう場合があるのです。そもそも下あごには、大きな骨と重い舌があります。仰向けになった時にその下あごが下がって気道をふさぎ、睡眠時無呼吸症候群を引き起こすのです。 無呼吸を繰り返すと、血液中の酸素濃度が30%前後下がってしまうことがあります。すると突然血圧が上がったり、血流が速くなったりします。そのため心臓や脳に梗塞などの障害が起こり、命にかかわるケースも考えられるのです。

治療法としてはマスクを鼻に装着して、睡眠中にも気道に空気を送り続けるCPAP療法が普及しています。また、下あごが上あごより上に位置するように保つマウスピースも登場しています。

 

女性に多くみられ、睡眠中に無意識に食べ物や飲み物を摂ってしまうのが「睡眠関連食行動障害」です。原因は以下の二つが考えられています。

 

子どもが寝ぼけるような状態が成人まで治らずに残ってしまい、それが食行動に変わってしまう。

日常生活のストレスが寝ている間に爆発してしまい、食行動に変化してしまう。

 

戸棚や冷蔵庫を開けて食べ物を取り出すだけでなく、調理までしてしまう場合もあります。夢遊病と合体して、深夜にコンビニまで買い物に出てしまうこともあるのです。問題なのは、自分の行動を制御できないため、悩み苦しんでしまうことです。ひどい場合にはうつ病を発症するケースもあるといわれています。

現時点では、決定的な治療法は定まっていません。しかし、他の睡眠障害に伴った二次性障害の場合には、原因となった睡眠障害の治療を優先。また、ストレスが原因と考えられる場合には、ストレスの低減を優先して行われています。

 

「レム睡眠行動障害」によって、本人や隣で寝ている人がケガをする事例も多く報告されています。

本来レム睡眠時には、夢を見るものの筋肉は動かないようにできています。しかし、筋肉を動かないようにするシステムが何らかの原因で働かなくなり、筋肉が動くようになってしまうことで起こる障害です。そのため、夢を見ているとおりに体が動いてしまうのです。見ているのが悪夢だった場合、相手に反応して手を振り上げたり喧嘩の状態になったり、そこから逃れようと実際に走り出したりします。その結果、隣で寝ている人がけがをしたり、本人が壁やガラス窓に激突する場合も増えているのです。

レム睡眠行動障害の主な原因は、脳の加齢による神経伝達障害やストレス、過度の飲酒といわれており、大半が50歳以上の男性です。薬による対症療法はありますが、根本を治療する方法は現在確立されていません。

 

 

また、「むずむず脚症候群」によって、睡眠の質が悪くなるケースもあります。

足の内部がほてったりしびれたり、虫が這うような感覚が起こるもので、多くの場合は動かないときに症状が現れます。そのため睡眠が妨げられ、日中に眠気が起こったり、日常生活に支障をきたしてしまうのです。

神経伝達物質・ドーパミンの機能低下や遺伝によるもの、鉄分の代謝異常などが原因と考えられていますが、特定はされていません。

 

夜間の睡眠とは異なる話ですが、昼間に耐えがたい眠気に襲われる「ナルコレプシー」も最近話題となっています。

前日によく寝たかどうかにかかわらず、仕事中でも学校の授業中でも、緊張するようなシチュエーションであっても眠気が襲ってくるのが特徴。しかも1日に数回、1~2時間おきに起こるため、対処が難しいのです。

脳内のたんぱく質で、神経伝達物質の一種であるオレキシンの欠乏が原因と考えられています。規則正しい睡眠をとり、計画的に20分以内の昼寝をすることで緩和される場合が多く、中枢神経刺激剤などの睡眠導入剤による薬物治療も行われます。

 

これらの症状は、放っておいては改善されにくいものがほとんどです。日常生活に支障をきたすようでしたら、睡眠外来やスリープクリニックといった専門医を受診することをお勧めします。

いずれにせよ、質のいい睡眠は健康生活の基本。まずは自分の睡眠の状態を知り、自分に合った環境を考えることで、より良い睡眠を目指しましょう。